おすすめの歴史小説 vol.21

はじめに

今回は永井路子さんの『この世をば』を紹介します。
この物語は、藤原道長の生涯を描いています。

物語に関連する出来事

  • 986年 一条天皇即位。藤原兼家、摂政就任。道長、倫子と結婚。
  • 990年 兼家死去。道隆が摂政就任。定子が一条天皇の中宮に。
  • 995年 道隆死去。道兼が関白就任(すぐに死去)。道長、内覧就任
  • 996年 伊周、隆家失脚
  • 1000年 彰子が一条天皇の中宮に
  • 1008年 敦成親王(彰子と一条天皇の第一子)誕生
  • 1009年 敦良親王(彰子と一条天皇の第二子)誕生
  • 1011年 一条天皇崩御。三条天皇即位
  • 1012年 姸子が三条天皇の中宮に
  • 1016年 三条天皇譲位。後一条天皇(敦成親王)即位
  • 1018年 威子が入内。道長、「望月の歌」を詠む
  • 1019年 刀伊の入寇。道長出家
  • 1027年 道長死去

この物語の見どころは次の3つです。

①道長の一生

「藤原道長」というと、どことなく「成功者」のイメージがします。しかし、この物語を最初から読むと、初めからそうだったわけではないことがわかります。

彼は五男という出世のチャンスが巡ってこない状況で常に兄たちの後を追いかけていました。
そうして貴族社会の波に揉まれながらもチャンスを手にいれ、やがて栄華を極めることになります。

しかし、栄華はいつまでも続くわけではありません。物語の最後では、邸宅が焼け、子にも先立たれるなど、道長の寂しい晩年も描かれています。

②貴族の権力闘争

「貴族」というと和歌を詠んで、蹴鞠して…とどことなくのどかで雅な印象があります。しかし実際には彼らは多忙で、政治家として常に権力闘争の渦中にありました。

誰につくか、どのようなコネを使ってその時力を持っている人に近づけるかで、出世するか憂き目を見るかが分かれます。
一方で周囲の人間は権力の座にあるものには擦り寄ってきて、落ち目の人間には容赦なく冷たいです(道長と伊周の権力闘争の時のように)。

この辺りは現在にも通じる点があり、権力闘争はいつの世も変わらないと感じさせます。

③道長の周りの女性たち

この物語には実に多くの女性たちが登場します。
例えば、姉の詮子や妻の倫子、明子のように道長の出世を政治的・精神的に支えた者もいれば、定子のようにその動向が道長を悩ませる者もいました。
そして、娘の彰子、姸子、威子は、道長の栄華を盤石なものとしました。

道長の半生は色んな意味で多くの女性たちの影響を受けたものでした。

おわりに

この本では、平凡ながらチャンスを掴んだ、これまでとは異なる道長の姿が描かれています。