おすすめの歴史小説 vol.25
はじめに
今回は小栗さくらさんの『余烈』を紹介します。
この小説は幕末を生きた人々の物語をオムニバス形式で取り上げています。
今回はその中から、小栗忠順、又一父子にまつわる「恭順」を紹介します。
物語に関連する出来事
- 1865年 横須賀製鉄所建設確定
- 1868年1月 鳥羽・伏見の戦い
- 同年2月 小栗一家、上州権田へ移住
- 同年3月 西郷隆盛、勝海舟と会談。江戸総攻撃は中止に
- 同年4月 江戸無血開城
- 同年閏4月 横須賀製鉄所が新政府に引き継がれる
- 同年閏4月6日 小栗忠順処刑(翌日、又一も斬首)
この物語の見どころは次の3つです。
①役目に忠実な人
物語全体を見てみると、小栗忠順は「自らの役目をまっとうする」人物であることがわかります。
アメリカに渡った経験から横須賀製鉄所建設に心血を注ぎ、軍艦奉行になればフランス式の軍事制度を取り入れてきました。
だからこそ、忠順は戊辰政府で新政府と戦うべきだと主張しても、結局は恭順の姿勢をとる徳川慶喜に従うほかありませんでした。
②交錯する父子の思い
養子の又一は当初、忠順が帰農したことを快く思っていませんでした(忠順の心境を知らなかったというところも大きいでしょうが…)。
今からでも江戸に戻り、新政府に抗戦すべきと訴え、忠順と衝突します。
けれども、権田の村人たちの様子を知り、忠順から権田へ移った真意を聞かされたことで、父子は和解し、同じ夢を見るようになります。
③未来に種をまく
残念ながら、忠順も又一も、無実の罪により志なかばで斃れます。
けれども、彼らはこの先につながる宝を残していきました。
忠順の作った横須賀製鉄所は「日本の資産」となり、近代日本の発展を支えることになります。
そしてその中には、忠順たちが教えた権田の者たちももしかしたら含まれているのかもしれません。
おわりに
この本は他にも、薩摩藩士の中村半次郎が主人公の「波紋」などがあります。
幕末を生きた者たちの内面の葛藤が描き出された作品です。