秋の味覚と日本史
はじめに
今年は10月に入ってからも最高気温が25度を超える日があり、なかなか「秋になった」という実感は少ないかもしれません。
しかし、秋刀魚や柿、サツマイモなど秋においしくなる食べ物は出回っており、着実に秋はやってきています。
そこで今回は秋の味覚にまつわるエピソードを紹介します。
①藤原陳忠と平茸
受領(地方政治を担う役人)となった藤原陳忠は任国に向かう途中、馬ごと峠から落ちてしまいます。
そこで、供の者がカゴ(旅籠)に縄をつけて下ろすと、陳忠の姿はなく、代わりにカゴいっぱいに平茸が載っていました。そのため供の者が再度かごを下ろすと、陳忠が片方の手で綱を持ち、もう片方の手で平茸を掴んだ状態で引っ張り上げられました。しかも本人は「もっと平茸があったのに…」と悔しそうな様子。
この様子を見て、供の者たちは顔を見合わせて笑います。
すると、陳忠は「宝の山に入って手ぶらで帰るのか。受領は倒れたところの土をも掴むのだ」と言い放ったのだとか。
もしも陳忠が食べ放題に行ったら大変なことになりそうですね。
②豊臣秀吉と松茸
秀吉が東山できのこ狩りをしようとしたところ、その場所は松茸の産地だったこともあり、松茸が少なくなっていました。
そこで、見張りの者たちは方々の山々から松茸を取り寄せ、秀吉のために植えておきました。
また、秀吉が山城国(現在の京都府の一部)の山里を梅松という者に預けたところ、梅松は「松茸が生えた」と言って秀吉に松茸を献上してきました。
しかし、その松茸は他所から買い集めた者でした。
秀吉くらいの人間になると、自然と松茸が集まるようです。
③正岡子規と焼き芋
夏目漱石がロンドンにいた時のこと、正岡子規から手紙が届きました。
その手紙は「僕はもうダメになってしまった、毎日訳もなく泣いているような次第だ」と悲痛な書き出しで始まっています(実はこの時正岡子規は結核にかかっていました)。
けれども、その次の一文ではいきなり「ところでロンドンの焼き芋の味はどんなか聞きたい」となぜか焼き芋の味を尋ねてきました。
これにはさすがの夏目漱石も困惑したのだとか。
ちなみに正岡子規は夏目漱石の家に転がり込んだ時、彼は毎日うなぎをリクエストしたと言われています。
食欲旺盛というべきか、食べ物への探究心が強いというべきか判断しかねるところですね。
おわりに
食べ物一つとっても人となりがそれとなく見えてくるところが面白いですね。
参考文献・参考サイト
- 進士素丸
- 『文豪どうかしてる逸話集』(KADOKAWA、2019年)
- 岡谷繁実著 北小路健・中澤恵子編
- 『名将言行録 現代語訳』(講談社、2013年)