おすすめの歴史小説 vol.16

はじめに

今回は梓澤要さんの『荒仏師運慶』を紹介します。
作品名にもなっている運慶とは、東大寺南大門金剛力士像の制作者でお馴染みの、鎌倉時代にかけて活躍した仏師です。
この物語は運慶の生涯を描いた話です。

東大寺金剛力士像

物語に関係する出来事

『荒仏師運慶』に関連する出来事を年表は以下の通りです(一部抜粋)。

  • 1176年頃 円成寺大日如来像を制作
  • 1180年 南都焼き討ち
  • 1186年 興福寺西金堂丈六釈迦如来像を制作
  • 1189年 運慶、鎌倉下向
  • 1195年 東大寺大仏殿落慶供養。神護寺の造仏に関わる
  • 1197年 東寺講堂の修復に関わる
  • 1203年 東大寺南大門金剛力士像が完成
  • 1205年 運慶倒れる。重源上人像を制作
  • 1218年 大倉新御堂の薬師如来像、十二神将像を制作
  • 1221年 承久の乱
  • 1223年 運慶没

この物語の見どころは次の3つです。

①運慶の芸術観の変化

ありし日の運慶は「美しいものを作りたい」という思いでさまざまな仏像を作ってきました。その結果、運慶の作る仏像は「時代の美」としてもてはやされるようになります。
しかし、病気で倒れたことを機に、「切なる祈りの対象」として仏像を作るようになります。
年を経るごとに運慶の作品は進化していきます。

②縁

運慶の生涯は多くの人々の縁で成り立っています。特に北条時政、重源、文覚との出会いは、「仏師としての人生」に大きな影響を与えました。
一方で運慶は延寿、北条政子、八条院、あやめなど多くの女性たちとも出逢います。彼女たちとの出会いは、「仏師としてのあり方、仏に対する考え方」に大きな影響を及ぼしていきました。

③仏との対話

この物語には、興福寺阿修羅像をはじめ、奈良時代や平安時代につくられた仏像が多く登場します。
運慶はこうした既存の仏像に触発されつつ、発願者の思いを仏像の姿形に投影し、仏像を作っていきます。
だからこそ、運慶の作品は躍動感にあふれ、見る者に知り合いの姿を見出したり、畏怖を抱かせたりするのでしょう。

おわりに

「寺院などを訪れる機会があったら仏像をもっとじっくりみてみよう」と思えるような、仏像に対する見方を変えてくれるような一冊です。