おすすめの歴史小説 vol.15
はじめに
今回は垣根涼介さんの『室町無頼』を紹介します。
この物語は、室町時代後期、混沌とした世の中に生きる者たちの話です。
物語に関係する出来事
『室町無頼』に関連する出来事を年表にまとめると以下の通りです。
- 1338年 足利尊氏、室町幕府を開く
- 1393年 足利義満、土倉役・酒屋役を賦課
- 1441年 嘉吉の変。赤松満祐が6代将軍足利義教を暗殺
- 1457年 寛正の大飢饉
- 1462年 蓮田兵衛が一揆を起こす
- 1467年 応仁・文明の乱(〜77年)
- 1485年 山城国一揆
この物語の見どころは次の3つです。
①混沌とした世を生きる者たち
この物語に登場する人物はそれぞれ複雑な過去を持っています。
赤松家浪人だった才蔵、それなりの家の武士だったと思しき骨皮道賢と蓮田兵衛、飢饉の中で遊女となった芳王子、飢えに苦しんだ過去を持つ法名房暁信…。
混沌とした世の中を生きて行こうとする姿が描かれています。
②現在に通じる言葉
この物語で描かれている時期は室町幕府の統制力がなくなる一方で飢饉や災害が頻発し、貧富の差は拡大する混沌とした時期でした。
だからこそ、骨皮道賢や蓮田兵衛の言葉には重みがあります。
「ぼんやり生きていると、銭と欲得が全てのこの世の中にたちまち食い尽くされるぞ。考えて、己の道を立てよ」(by骨皮道賢)
「探すのではない。作っていくしかない。自分の棲む場所は、ということだ」(by蓮田兵衛)
こうした言葉は先行きの見えない現在にも通じるところがあります。
③骨皮道賢と蓮田兵衛
主人公の才蔵に大きな影響を与えるこの二人は片や市中警備役、片や一揆の首謀者と置かれている立場は真逆です。
けれども、彼らは共に幕府や公家といった既存の秩序を破壊し、新しい世界を作っていくことを目指していました。
結果として彼らは志なかばで倒れるものの、彼らが先鞭をつけて作ろうとした道は後の者に引き継がれていきます。
おわりに
この作品は現在を生きるヒントが込められているようなそんな一冊です。
この一冊を読んで室町時代に興味が湧いた方は、ぜひ直木賞受賞作の『極楽征夷大将軍』も読んでみてください。