おすすめの歴史小説 vol.13

はじめに

今回は浅田次郎さんの『壬生義士伝』を紹介します。
この物語は新撰組隊士吉村貫一郎の半生を彼自身の回想と彼をよく知る人々の視点から描いた作品です。過去には映画化され、中井貴一さんが主演を務めました。

物語に関係する出来事

『壬生義士伝』に登場する出来事を年表にまとめると以下の通りです。

  • 1864年 池田屋事件。蛤御門の変(禁門の変)。第一次長州征討
  • 1866年 薩長同盟締結
  • 1867年 大政奉還。坂本龍馬暗殺。王政復古の大号令
  • 1868年 鳥羽・伏見の戦い。江戸城無血開城。上野戦争。会津戦争
  • 1877年 西南戦争。
  • 1914年 第一次世界大戦

この物語は大正時代と幕末を行ったり来たりしています。見どころは次の3つです。

①吉村貫一郎という「侍」

この物語は吉村貫一郎を知る者の回想と大坂にある南部盛岡藩の御蔵屋敷にいる貫一郎自身の述懐が交互におりなされてできています。
彼は「守銭奴」などと陰口を叩かれていたものの、彼のことをよく知る者は彼に「本物の侍」の姿を見出していました。

②武士のあり方

下級武士の貧しさや「武士」という生き方の行き詰まりといった点は以前紹介した『流人道中記』に通じています。この作品もまた『流人道中記』同様、武士のあり方に疑問を呈しています。
武士に求められる「義」とは体面を保つために下々の者(領民や下級武士など)を犠牲にして幕府や藩に忠義を尽くすことではない。何よりもまず妻子や民を大事にすることこそ「義」であると考え、運命に抗ったのが貫一郎でした。

③「思い」の物語

この物語はさまざまな人の「思い」が結集しています。
新撰組の面々(吉村貫一郎の同期や土方歳三、斎藤一など)の貫一郎だけは助けたいという思い、貫一郎の雫石にいる妻子と故郷盛岡への思い、大野次郎左衛門の藩と親友との間で揺れる葛藤、嘉一郎(貫一郎の息子)の父母への思慕、そして父と同じ名を受け継いだ貫一郎のふるさとへの思い…。
こうした人々の「思い」に心打たれずにはいられません。

おわりに

浅田次郎さんが「泣きの浅田」と呼ばれる理由がよくわかる一冊です。