士農工商

はじめに

江戸時代の身分制度といえば、「士農工商」という言葉を思い浮かべる人もいるかもしれません。
今まで、人々は武士・農民・職人・商人のいずれかの身分に分類され、それぞれの身分は固定されていた、と考えられていました。
しかし、「士農工商」という言葉のイメージと実態は異なるようです。

士農工商とは

そもそも、「士農工商」という言葉は中国の歴史書に載っていた言葉です。
あくまでも身分の種類を表した言葉で、それぞれの身分は並列に扱われていました。
つまり、武士、農民、職人、商人の順番に偉い、という意味は含まれていません。
実際には支配階級は武士だけで、農民、職人、商人は台頭な立場でした。

さらに、それぞれの身分の実態もイメージとは異なるようです。3つ紹介します。

①農業以外も行う農民

江戸時代、農民には土地を持つ本百姓と土地を持たない水呑百姓がいました。
これまで水呑百姓は貧しい、というイメージを持たれていました。
しかし、水呑み百姓の中には林業や漁業、廻船業を本業にする者もいました。
つまり、全ての農民が農業だけを行なっているわけではありませんでした。

②お金で買える武士の身分

武士は名字帯刀といった特権を持ち、武士の家に生まれなければ武士にはなれない、といったイメージがあるかもしれません。
しかし、他の身分から武士になった者は存在しました。というのも、江戸時代中期に入り幕府や諸藩が財政赤字に直面するようになると、生活の苦しい武士の中には武士の身分を得る者も現れたからです。
ちなみに、先祖が武士身分を買ったことで武士となった者として、幕末に活躍する勝海舟や坂本竜馬がいます。

③「士農工商」に当てはまらない人々

そもそも、江戸時代に生きた人々全てが「士農工商」のいずれかの身分に当てはまったわけではありません。
役者や芸術家などのように「士農工商」の枠に当てはまらない者もいました。

おわりに

「士農工商」という言葉からは江戸時代の硬直しイメージを想起させます。
しかし、江戸時代の身分は実際のところ、流動的で、多様なものでした。

参考文献・参考サイト

歴史ミステリー研究会
『昔の教科書とはこれだけ変わった! 日本史の新常識』(彩図社、2020年)
網野善彦
『日本の歴史を読みなおす(全)』(筑摩書房、2005年)