おすすめの歴史小説 vol.5
はじめに
今回は夢枕獏さんの『陰陽師 醍醐ノ巻』(文藝春秋、2013年)を紹介します。
『陰陽師』は過去に野村萬斎さん主演で映画化されました。なお、映画「陰陽師」のメインテーマはフィギュアスケート選手の羽生結弦選手が2017年〜2018年シーズンや平昌オリンピックのフリーの演技で用いたことでも有名です。
物語に関係する出来事
『陰陽師』の主人公安倍晴明は実在する人物で、921年から1005年にかけて活躍しました。
その間の出来事を年表にまとめると以下のようになります。
- 935〜941年 承平・天慶の乱。関東で平将門の乱が、瀬戸内海で藤原純友の乱が起こる
- 969年 藤原氏内部の権力争いが起こる
- 995年 藤原道長が内覧(関白に準じる役職)に就任。以後道長の時代を迎える
物語の見どころは次の3つです。
①安倍晴明の活躍
晴明のもとには怪異現象にまつわる依頼が次々ともたらされます。
それを晴明がどのように解決していくか。まるでミステリーを読んでいるような気分になります。
②臨場感ある描写
作品を読んでみると、五感にまつわる描写が多いことに気づきます。
例えば、晴明と源博雅が酒を飲み交わす場面では、晴明の庭の様子にも触れています。それに加えて虫の音、笛の音など音にまつわる描写や匂いにまつわる描写もあります。
五感にまつわる表現があることで臨場感が増し、物語の世界に入り込みやすくなっています。
③晴明と源博雅の友情
作品を見てみると、冒頭は晴明と源博雅が酒を飲み交わす場面で始まることや晴明が依頼者のもとに向かう際、博雅も同行していることに気づきます。これだけでも二人の仲の良さを感じさせます。
さらに、晴明は作品の中で「博雅と酒を飲み交わせば満足」と言っています。
作品を読み進めるにつれ、晴明と博雅の強い絆を感じることができるでしょう。
おわりに
『陰陽師』は安倍晴明という人物像を作り出した作品と言えます。
短編集でどの話からでも読みやすいので、ぜひ一読をおすすめします。