おすすめの歴史小説 vol.1
はじめに
今回は浅田次郎さんの『流人道中記』(中央公論新社、2020年)を紹介します。
物語に関係する出来事
最初に物語の時代背景は以下の年表の通りです。
- 1841〜43年 水野忠邦が天保の改革を行う
- 1853年 ペリー来航
- 1854年 日米和親条約調印
- 1858年 日米修好通商条約調印
- 1858〜59年 井伊直弼が安政の大獄を行う
- 1860年 桜田門外の変おこる
- 1860〜62年 安藤信正が公武合体政策を行う
- 1862年 坂下門外の変おこる
物語は桜田門外の変後、幕府、薩摩藩、長州藩が大きく動き出す直前の話です。
江戸町奉行の与力(役人の一種)石川乙次郎が青山玄蕃という罪人を津軽(今の青森県)の三厩まで押送します。
この物語の見どころは大きく3つあります。
①道中で出会う人々
指名手配犯に賞金稼ぎ、長年にわたり親の仇を探す人、宿村送りをされる女性…。青山玄蕃と乙次郎は道中でさまざまな人々と出会います。青山玄蕃は彼らが抱える問題を鮮やかな方法で解決していきます。
②乙次郎の成長
乙次郎は貧しい家の出ながら頭脳と剣術の腕を買われ、与力を務める家へ養子に入りました。そのため、物語の当初は自らの置かれている状況に卑屈になっているところがありました。
また、青山玄蕃に対して当初は「破廉恥な罪を犯したけしからん奴」という印象しか持っていませんでした。
しかし、共に過ごしていく中で乙次郎の中に変化が生じてきます。
乙次郎は道中で妻のきぬへ手紙を出しています。手紙の内容から玄蕃に対する印象や自身の考えが変化していく様子を窺い知ることができます。
③青山玄蕃の罪
青山玄蕃が島流し(正確には蝦夷地への永年預け置き)になった理由は玄蕃が姦通罪を犯し、切腹という判決を拒否したからでした。
しかし、物語の最後で玄蕃の罪は濡れ衣だったことがわかります。
ではなぜ玄蕃は罪を受け入れたのか。その謎は物語を最後まで読むとわかります。
おわりに
時代が大きく変化しようとする中で、玄蕃は「武士」という存在をどう考えたか。
一つ一つの話が心に深く残る作品です。